ポストコロナに向けた中小企業支援策について

2021年10月24日
開催日時
2021年9月2日 午後3時00分~5時00分
開催場所
AP西新宿
テーマ
ポストコロナに向けた中小企業支援策について
副題
資金繰り支援及び事業再構築補助金等を活用した本業支援を中心として
講師
税理士 湊 義和氏(東京税理士会中小企業対策部部員)
執筆者
税理士 齋藤 幸生(東京税理士政治連盟 広報部部員)

今研修は「ポストコロナに向けた中小企業対策について」ということで東京税理士会新宿支部と東京税理士政治連盟新宿支部との合同で行われた研修を執筆者が本研修を受けたところでの所感をお伝えするとともに、今後、税理士が対応していかねばならない中小企業への支援について本研修での考察を寄稿するものとなります。

中小企業の現状について

中小企業の現状について中小企業白書にてコロナ前の中小企業の増減数とコロナ後の中小企業の増減数についての考察やCRDによる中小企業の利益分析結果の考察もあった。高齢社会白書では人口推移の考察が行われた。普段、税理士業務を行っていると統計情報を調べてマクロ的な視点を持つことが少ない。こうしたことが不足していると浮き彫りになり本原稿執筆者として勉強になった。

上記の内容については、中小企業の増減数は経済不況に陥る都度数が減っていく傾向が資料より読み取れた。この部分が今回の研修テーマになっている中小企業支援策への理解に役に立つと考えられる。言い換えると、直近で記憶に新しい経済不況はリーマンショックであろうと思うが、コロナ禍での状況でも同様のことが起こっている。中小企業数が減っているということは資金不足などで事業継続性が難しい場面に直面している現状がわかってくる。したがって、事業継続性が難しい場面に直面している中小企業への支援として税理士が関与している中小企業に資金繰り支援を行う必要性が浮き彫りになったと考えることができる。

高齢社会白書では1995年に生産年齢人口(15歳~64歳)が8,716万人と最高を迎え、その後はピークアウトしている状況となっている。2020年においては、生産年齢人口が7,406万人となり生産年齢人口は減っている。このことは、次のことを示唆している。生産年齢人口の減少により日本経済の縮小及び働き手が減少することになる。中小企業の視点では規模を追求することが今後難しくなることがわかってくる。働き手の減少から人手不足の解消を生産年齢人口で補うことが難しくなってくることも同様である。結果として生産年齢人口の減少により中小企業の企業数も減少している推移の比較も示された。

CRDにより融資をしている中小企業の純資産と営業損益の分析で中小企業の支援策区分ができ支援の整理ができることが大変役に立った。具体的には、コロナ前の分析においては全企業数の約10%について事業承継税制の支援が必要となり、残りの企業については経営者の後継者確保や経営者保証ガイドラインによる経営者保証外しといった支援策が必要になる結果となっている現状があった。コロナ後の検討は業種別の売上高の比較が行われた。多くの業種でコロナ前と比較すると売上が減少傾向にあることが数字により客観的にわかる結果となった。コロナ後の借入状況では債務超過になっている企業で70%以上が新規の借入を行っている現状があること、自己資本比率が上がれば上がるほど新規の借入が減っていく状況であることも確認できた。有効求人倍率の確認では2020年9月につけた1.04を皮切りに上昇傾向が続き、2021年6月では1.13まで回復をしている。このことは、生産年齢人口の減少とコロナ後で経済活動が再開されると有効求人倍率が上がる可能性がある。求人募集は現状が中小企業にとって追い風になる可能性が示された。最低賃金は2021年に大幅に上昇することとなった。2021年10月からは全国平均930円で東京は1,041円になる。このことは、中小企業について人件費と社会保険料の増加が見込まれる傾向があることがわかってくる。以上のことから、コロナ後の中小企業の分析として純資産が減り、営業損益も悪化する傾向になる可能性がある。コロナ後の支援策として行えることは次のように分類することになる。①資金繰り維持支援、②事業再生支援、③営業キャッシュフローの増加、④財務キャッシュフロー再構築が挙がることになる。

事業再構築補助金の前段階としての分析

事業再構築をするためにどういった業種の労働生産性が高いのかという確認をする必要があるので、中小企業の業種別労働生産性の確認を行った。結論としてはBtoBの業種の方がBtoCの事業よりも高いことがわかった。最も労働生産性が低い業種は宿泊業、飲食サービス業で256万円/年であった。このことは、宿泊業や飲食サービス業の中でのみ事業再構築することが難しいことを示している。結論としてBtoBの業種への事業転換という方策を考えることができることになる。ただ、事業再構築をするに当たり開業率と廃業率の分析も欠かせない。例えば、小売業の開業率は中間あたりになっているが廃業率は上位から3番目になっている状況がある。業種転換をする場合、開廃業率にも注目をする必要があることがデータにより明らかになっている。

コロナ危機支援の優先順位

湊氏より次のような優先度が示された。

  1. 向こう1年の「資金繰り維持支援」を行う
  2. 資金調達が難しい時には、躊躇なく「事業再生支援」へ移行する
  3. コロナ特別借入による手許資金や補助金を活用して、「事業再構築支援」を行い、営業キャッシュフローの増大を成功させる
  4. 手元返済による手元資金の減少を防止するために、「財務キャッシュフローの組み換え支援」を行う。

上記について具体的には次のような考えで行うことが示された。
資金繰り支援策はコロナ特別融資借入金のうち元本の返済が始まっているものや据置期間中のものについても再度一度据置の措置をすることである。関与先の状況によって考え方は一律ではないが黒字化が見込めない状況であれば、据置期間を延長した方が企業の資金繰りにプラスになるためである。もちろん、黒字化していて、社長の意向が返済したいという場合には返済することを検討することは問題ない。執筆者の私見ではあるが、黒字化であったとしても据置期間を使うことは企業のキャッシュフローにポジティブに働くと考える。というのは、元本の返済原資は損益計算書の法人税等を支払った後の税引後当期純損益である。もし年間の返済金額が税引後当期純損益を超えることになると企業のキャッシュフローがマイナスになるからである。すなわち、営業キャッシュフローがプラスであっても元本返済により財務キャッシュフローのキャッシュアウトが大きくなるので、結果として企業全体のキャッシュアウトの方が大きくなる。

もし追加融資を受ける場合には金融機関の本音を知っておく必要がある。次のような本音があることに留意することになる。

  1. 貸付サイクルが短すぎる
  2. コロナ貸付金額が企業規模に比べて、すでに十分大きい
  3. 前回の融資は元本が据置で、まだ返済が始まっていない
  4. 再融資を検討するには、現状と先の損益及び資金繰り見込みを確認しないと判断できない

以上のことを満たすため、「現状と今後の回復の見込み」、「6カ月損益予測表と資金繰り予測表」、「支援要請文」、「税理士紹介状」などを用意して社長、金融機関、税理士とで話し合うことが望ましい。

事業再生支援は「経営改善サポート保証」による支援の可能性を打診する。これによって金融機関ごとの個別のリスケや特例リスケを検討することになる。執筆者の経験を申し上げるとリスケは早ければ早いほど良いことになる。理由はリスケを早期に実現することで無駄なキャッシュアウトを防止することができるためである。リスケ以外の支援策は経営改善計画策定支援事業がある。税理士の多くは認定支援機関になっているが企業が認定支援機関による支援を受けることで計画策定費用とフォローアップ費用について2/3(上限200万円)の補助金がある。企業と税理士が経営改善計画を作成することで経営改善を促す支援策になる。

事業再構築支援はコロナ融資や「事業再構築補助金」などを有効活用して企業を成長させることにより営業キャッシュフローを増加させ借入金の返済能力を向上させることを目標する支援策である。税理士が行う「事業再構築補助金」の支援ステップについては次のようなやり方が示された。

  1. 対象事業者確認
  2. 補助事業の選定
  3. 事業計画策定支援
  4. 確認書の作成
  5. 補助事業実行支援
  6. フォローアップ支援

税理士にとって不慣れな事業計画書の作成があるので審査項目に沿った支援を行うことが事業再構築補助金の支援では重要になってくる。特に重要なことは強み、弱み、機会・脅威のSWOT分析について税理士が支援できることである。採択を受けるときに必ず書いておかねばならないことは、「事業化のために乗り越えるべき課題、リスクとその解決方法」である。要するに、絵に描いた餅になっていないかどうかを説明できているか問題となってくる。

財務キャッシュフローの組み換え支援はコロナ特別貸付を3つに分割することになる。すなわち、元本を正常に返済できる部分は正常に返済を行う、正常運転資金は短期継続融資への組み換え(返済なし)を行う、長期的な返済が必要な部分は新型コロナ対策資本性劣後ローンへの組み換えをすることになる。こうしたことの背景にはコロナ特別貸付の資金の中に過去の赤字補てん分も隠れていることから赤字補てん分の金額を返済するためには黒字にして資金を確保しないと返済できないからである。最終的に元本を正常に返済できる部分のみ返済を行い正常運転資金と長期的な返済が必要な部分は一時的に返済をなくす手法になる。執筆者の経験から申し上げると正常運転資金を短期継続融資への組み換えはハードルが高い。短期継続融資は金融庁が金融機関へ要請している事柄ではあるものの実質的には純資産が30%以上で債務償還年数が5年未満、手元資金も相応に保有している必要がある。もし短期継続融資になったとしても金利が高い場合があるので金利の確認も必要である。資本性劣後ローンについても問題点がある。金利が高い、期限が来た場合には一括返済になる契約になっている点である。執筆者も関与先と話していて社長が懸念を抱いたことは金利の高さと一括返済契約にあった。もし、短期継続融資や資本性劣後ローンを行う場合には戦略と準備が必要になるのが現実である。

研修の執筆者の所感について

コロナ後を見据えた支援の在り方として統計情報を基に税理士が経営者と話して経営相談を行うという示唆は非常に有用であると考えられる。税理士の本業は税務と会計に終始しており、付随業務の経営相談までは手が回っていないところが実情であろう。今後、中小企業が減っていくが、税理士の役割が大きくなる可能性があることが重要であると捉えたい。中小企業への支援は重要であるが支援策を通じて追加の報酬を中小企業から頂くビジネススキルも今後の税理士にとっては必要なスキルになると考える。