東京税理士会法対策部・新宿税理士政治連盟合同研修会

2021年11月10日

日時:2021年11月10日
場所:AP西新宿
テーマ:税理士法改正
講師;東京税理士会 石井制度部長
執筆者;新宿政治連盟 広報部部員 齋藤幸生

第一部 東京税理士会 制度部長 石井宏和氏による講演
税理士法改正の手続きについて
冒頭において、石井制度部長より今回の税理士法に関せる改正要望書について以下の説明があった。
日税連は令和3年6月23日公表の日税連の税理士法に関する改正要望書を決議し、改正内容になった。詳しくは日税連が令和3年8月に研修として収録した研修があるのでこちらを参考にしてもらいたい。日税連は各15単位会に事前の説明を行い、国税庁・財務省へは今回の要望書にて法案を作成する旨伝えている状況であった。今後、税制改正大綱にて税理士法改正が触れられる予定となっている。

今回の改正の中身①(税理士の業務のICT化推進の明確化)
 税理士法に規定されるものと会則等で措置する項目に分かれる。前提としてICT化の進展とウィズコロナ、アフターコロナの社会経済状況を見据え、ICT化を前提とした変革が求められている状況である。税理士を取り巻く状況の変化に的確に対応すべく、多様な人材の確保を図るとともに、納税者利便の向上を図る観点となる。
多様な人材の確保とは、税理士試験受験生の数が減っていることに対する対策になる。納税者の利便性向上に努めることとしてICT化推進の明確化を図ることとなっている。ICT化は今後税理士法2条に新設される予定となっている。

各単位からの意見
 そもそもICT化を税理士法に新設する必要性があるのかという意見があった。日税連としては日本のデジタル化が遅れている観点から国が推進するデジタル化を促進するために納税者の利便性の向上を図る目的で規定する必要があると考えている。別の意見としてはICT化を税理士法に新設することは義務になってしまうのではないかという意見だった。こちらについては義務ではないとの認識が示された。

今回の改正の中身②(税務代理における利便の向上)
 デジタル化によって納税者のマイナポータルを経由した情報の取得を見据えて税務代理に取り込もうという趣旨になる。

今回の改正の中身③(税理士会等の通知等の電子化)
 税理士業務と会務をデジタル化することを念頭に入れている。また税理士会の会長・副会長選挙についてネット投票に向かっての議論も進めている。デジタルデバイドの問題があるので東京税理士会ではデジタル化委員会で会員に対しての支援をしている最中である。

今回の改正の中身④(電子記録媒体の見直し)
 電子記録媒体が「磁気ディスク」とされているところを色々な媒体が含まれるように「電磁的記録」改めようとする趣旨になる。

今回の改正の中身⑤(事務所規定の見直し)
 コロナの影響で令和2年からテレワークが拡大するという事態になり事務所に通勤しない状況が続いたことにより、自宅で税理士業務を行うと2か所事務所の禁止規定に違反するのではないかという疑義を払しょくするため物理的な設備の状況等を判定基準とする定義の見直しを考えている。具体的には、通達の40-1の事務所の意義を法的な場所として定義することとしている。現状では制度部以外の部との打ち合わせを進めている段階になっている。

今回の改正の中身⑥(受験資格要件の見直し)
 税理士試験受験生が減っているので会計学に属する科目に限り受験資格要件を不要とすることなどを考えている。具体的には会計学については大学1年生からでも税理士試験を受験することができるようにする。ただ科目合格制の強みとして働きながら受験できることや他業種で活躍した方が税理士試験を受けて多様な人材の確保もできると考えると在学中に科目合格をしていることで職業選択の幅も増えるのではないか。今回の改正は第一段階で続いての改正も考えている。

今回の改正の中身⑦(税理士法人の業務範囲の拡大)
 税理士が法令等に基づき専門的知見を活用して個人として行っている租税教育への講師派遣や成年後見業務などの社会貢献に資する業務等を含めるようにする。勘違いしてほしくないことは、税理士法人が租税教育や成年後見業務を行うことについて義務化する法整備ではない点にある。

今回の改正の中身⑧(社員税理士の法定脱退事由の整備)
 税理士法人における社員税理士の法定脱退事由として、業務停止を明記する。現在の税理士法には業務停止処分を受けた税理士が法定脱退事由になっておらず整合性が取れないため、法定脱退事由に業務停止処分を追加することとしている。

今回の改正の中身⑨(税理士違反行為の時効制度の創設)
 税理士法違反行為について、税理士懲戒処分等は信用にかかわる重大な問題であり、税理士による反論手段を確保するため、税理士法違反行為後10年が経過した後は税理士懲戒処分ができないようにする規定を創設する。法的な除斥期間を設けていないと何十年も前の違反行為につき指摘されたときに反論の余地がない可能性が出てきてしまう。10年にした理由は課税処分の除斥期間が7年であることから10年が適当と考えたことによる。

今回の改正の中身⑩(法33条の2に規定する書面の名称変更及び資産税用の様式の制定)
 書面添付制度の更なる普及促進に資するため、法33条の2に規定する書面の名称について、書面の趣旨を端的に表すものに変更する。相続税及び贈与税などに適した複数の様式を制定することになる。

今回の改正の中身⑪(会則等で措置する項目)
 会則順守義務の徹底について必要な措置を講じ、周旋業者の利用に関する指針の整備は税理士の周旋業者(税理士紹介会社)の利用に関する指針を設けること、税理士職業賠償責任保険制度のあり方の検討を行うものとする。税理士職業賠償責任保険は低価格の商品を開発して全加入を目指す。

第二部 パネルディスカッション
パネリスト:
東京税理士会 制度部長 石井宏和氏
東京税理士政治連盟 会長 名倉明彦氏
東京税理士会 制度部副部長 牧島和夫氏
新宿税理士政治連盟 会長 菊池純氏
コーディネーター:
東京税理士会新宿支部 副支部長 山本高志氏

改正要望に至るまでの経緯
今回の税理士法改正の要望書の経緯について牧島副部長から以下のように説明があった。
日税連の税理士法改正のプロジェクトチームと財務省の主税局、国税庁の総務課の主要メンバーが月1回会合を重ねて、国税庁も税理士法改正の要望があり、税理士会側も改正の要望があった。また納税者の利便性向上のための改正要望もあった。

ICT化とウィズコロナ時代の対応について
菊池会長の発言:
 今回の税理士法改正は、2019年4月に日税連制度部が出した答申にあった税理士の署名押印のデジタル化等税理士の地位の向上と納税者の権利を守るための改正と違う内容になっている。
 日税連理事会で、2021年6月23日機関決定した、「税理士法に関する改正要望書」の「税理士の業務のICT化推進の明確化」で税理士法第2条の3等が掲げられたが、その創設に対して下記の理由により強い懸念をもっている。

(税理士の業務における電磁的方法の利用等を通じた納税義務者の利便の向上等)
第二条の三  税理士は、第二条の業務を行うに当たっては、同条一項各号に掲げる事務及び同条第二項の事務における電磁的方法(電磁情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を使用する方法をいう。第四十九条の二第二項第八号について同じ。)の積極的な利用その他の取組を通じて、納税義務者の利便の向上及びその業務の改善進歩を図るよう努めるものとする。

 (税理士の権利及び義務等に関する規定の準用)
第四十八の十六 第一条、第二条の三、第三十条、第三十一条、第三十四条から第三十七条の二まで、第三十九条及び第四十一条から第四十一の三までの規定は、税理士法人について準用する。

 (税理士会の会則)
第四十九条の二 税理士は、税理士会を設立しようとするときは、会則を定め、その会則について財務大臣の認可を受けなければならない。
2 税理士会の会則には、次の事項を記載しなければならない。
 一~七 略
 八 第二条の業務において電磁的方法により行う事務に関する規定

                    記
1.税理士法になじまない。
 今回の改正案は、税理士の担う業務の範囲を示すものではなく、また、税理士の果たすべき責任の範囲も不明確であり、税理士が遵守すべき職業法規として税理士法になじまないと思う。
 そもそも、税理士法第2条1項2号の「税務書類の作成」に、「電磁的記録を含む」として、税理士業務に電磁的方法が規定されており、改正案の創設はまったく意味がなく、税理士制度の進歩にも資することはない。

2.「納税義務者の利便の向上」を税理士法に規定すべきではない。
 「納税者の利便の向上」を図ること、は税理士の使命の「申告納税制度の理念にそって、納税義務者の信頼にこたえ、租税に関する法令に規定された納税義務の適正な実現」を図ること、と全く異なる。
 そもそも、納税者の利便の向上を図るのは国税庁の役割で、それを税理士も担うということが条文に書かれたこの改正案は、税理士の使命自体をゆがめる結果になると考える。

3.税理士会会則絶対的記載事項に規定すべきではない。
 税理士法第46条6項には、「税理士会は、税理士及び税理士法人の使命及び職責にかんがみ、税理士及び税理士法人の義務の遵守及び税理士業務の改善進歩に資するため、支部及び会員に対する指導、連絡及び監督に関する事務を行うことを目的とする。」と規定している。
 すると、「第2条の業務において電磁的方法により行う事務に関する規定」は、「税理士の義務」ではないし、更に、「税理士業務の改善進歩に資する」ものではないので、税理士会の目的とはなりえない。

4.インボイス制度の推進につながる恐れがある。
 我々は2023年10月から実施が予定されているインボイス制度に、①導入により免税事業者が取引から排除されるおそれがあること、②仕入税額控除の可否を判断するために増加する事務負担への対応が困難であること、などの理由から導入に反対している。
 しかし政府は、インボイス制度導入のため、電子インボイスの推進を行っている。
 今回の税理士法第2条の3等の改正要望の電磁的方法の積極的推進は、電子インボイスの推進につながり、果てはインボイス制度の推進につながることになると考えている。

 石井制度部長の発言:
色々な意見がありますが、今回の改正を税理士法に入れることに違和感があるといった意見があった。日税連としてはデジタル化への速度がすごく早くなっている。行政についてもデジタル化のスピードが速まっている。我々の内部、外部としてデジタル化を行うという宣言をする意味があると考えている。
山本副支部長の発言:
法律の改正のテクニックとして、税理士の利便性を前提とした法改正はやりにくいので改正の理由を外に作りだすやり方があると思っている。

税理士事務所のあり方としてテレワークの指針について事務所規定の見直し
名倉会長の発言:
今回の改正は法改正ではなくて通達の改正になっている。税理士事務所の規定は70年前から変わっておらず世の中の流れについて行っていない状況がある。コロナ禍になりテレワーク規定が公表されたが、税理士法では自宅での税理士業務を行う可否については書いていない。業務を行う空間を規定することは難しいのではないか?私見になるが監督や守秘義務を満たしていればどこで仕事をしてもよいのではないかと考えている。指針としてはやってはいけないことリストを公表して対応するのはどうかと思っている。
 牧島副部長の発言:
部会によって意見が分かれるところであると思っている。若い人、具体的には税理士試験を受けて税理士になる人がすごく減っている。逆に大学院や公認会計士で登録といった人たちが多くなっている現状を見るとすごくいろんな働き方ができるという税理士増が必要なので事務所規定の見直しについて、指導監督ができる状態で見直されるとよいと考えている。
山本副支部長の発言:
見直しがなかなか進まない、結論がでてこないという意見があったことと思いますし、この改正の肝は従業員がいて作業を依頼するといったときの指導監督や守秘義務になる。空間ではなくセキュリティといった守秘義務などが事務所問題の解決になるのではないか?
石井制度部長の発言:
改正の方向性としては、サテライトオフィスもOKといったイメージになると思う。問題は人を雇った場合になるが、仕事のしかたは常識的なあり方で落ち着くとは思う。しかし、税理士によって税理士法人、会計法人、事業会社に勤めているなど様々なケースが想定される。この中で限界事例のような極端なケースを消していくやり方になると思う。

多様な人材の確保について受験資格要件の見直し
名倉会長の発言:
大学1年生から受験できるようになったことはよいことだと思う。大学3年生から受験可能だと就職活動があって税理士になろうとは考えられないと思う。結論からすると受験資格の撤廃をしてしまったほうが良いかもしれない。税理士の適正人数については何人が適正なのかわからない。
山本副支部長の発言:
令和元年のパネルディスカッションでは受験者数が増えたらよいのか?そうではなく税理士の中身の話が出た。税理士試験は税理士会でやってコンパクトな施設を作り日本全国で開催できれば受験しやすい環境になるのではないか?
牧島副部長の発言:
恐らく、受験資格の見直しで、会計学を全部合格したとしても大学3年生にならないと税法を受験することはできない。しかし、法律と経済で限定されている受験資格を社会科学系というような形で変更になる予定になっている。

税理士に対する信頼の向上を図るための環境整備
山本副支部長の発言;
税理士法人に対する倫理研修の受講義務が今回の改正からは落ちてしまっている。こうした事情について牧島副部長にお話しいただきたいと思います。
 牧島副部長の発言:
どうして落ちてしまったのかは不明となります。私の経験として大規模な税理士法人だと極端な分業化が進んでいて税法のある部分だけをやっている状況がある。税法の横断的な知識が不足して、トラブルがあったときにどう対応したらよいかがわからない。というのはトラブル対応の専門部署が対応することになっている。以上のことから非常に心配になることがあったということは事実になります。
石井制度部長の発言:
各単位会の意見交換会では倫理研修についての質問があったようです。日税連としては要望書に書いていなかったからと言って会則等で措置しないということではない。

本研修における筆者の所感
税理士法改正についての要望はいつの間にか決められているような感覚があるので今回のような研修で内容を知ることに意義があるように思う。この点、多くの税理士が税理士法改正に興味がないことの裏返しの証左になっていると考える。つまり、どのような改正をしたとしても税理士にとって重要な法改正であれば反応はあると思うが、今回の要望書の案だとほとんどの税理士にとって何かがわかるわけではないからである。社会一般常識の対応として決まったことを守ってさえいれば税理士の職責が脅かされることはないし、特に意見をする必要性もないからである。法律論として規定を入れる、入れないといった議論、行政庁との打ち合わせは必要であると思うもののより多くの税理士と向き合ったうえでの議論になる税理士法改正が行われることを望む。